1
君と真面目な話はしたくない。
いつも笑っていたい。
楽しいことだけ、与えたい。沢山、沢山。
そうすれば、条件反射で。
いつか。
僕を見るだけで笑えるんじゃないか、とか。
僕を見る度に楽しい気持ちになるんじゃないか、とか。
考えてるの。
これっておかしい?間違ってる?
僕は苦労する方の道を選んだだけだよ。
君の為に、何か苦労を、したいと思ったんだ。
―――――――――――――――――――――――スマイルランド。
「悪魔くん、俺ん事スキ?」
「うん。めちゃくちゃ」
「じゃぁさ」
「それとこれとは別」
「・・・・・・・ちぇー」
ムリに平然を装って、君の側に座ってる。
だけど、不自然に立った背筋の所為で、
緊張してる事はもうバレているのかも。
君の指が、そろそろと僕に近づいてきてるの、知ってる。
怯える様にそっちをむいて、僕は唇を尖らせた。
「ダメだって、言ってるだろ?」
「したいって、言ってるだろ?」
「っっっっ」
「へへ。似てた?」
「二世のバカ!!」
僕の口まねをするのが“マイブーム”らしい。
12使徒に披露して、僕をテレさせるのが目的みたい。
二世は目立つのが好きだ。
結局、自分が一番なんだから。
だから僕の事はちっとも考えてくれない。
・・・・ううん。“ちっとも”はオーバーか。
二世は昨日肘を少し擦り剥いた。もちろん僕を庇ってだ。
服をきっちり着込んでるから、もう見えないけど。
昨日はそのいつもキレイにしている洋服に、ドロがついていた。
「あーくまくん、なぁ〜。じゃぁ一回だけ」
「ダメだってば。したら眠くなっちゃうだろ?もうちょっとで何か分かりそうなんだよ」
「・・・・・何読んでんだ?俺とそれどっちが大事なんだよ?」
「本」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・っっ・・・・え、っと・・・・“今は”・・・・本・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・本気?」
「嘘です。っでも今晩は勘弁してくださいっ!!頼むよぉ」
「・・・・・・・・・・」
目が変わるから、怖い。
大人を装った二世は僕の一言でムっとして、本性を出す。
声は突然低くなる。
まずったなぁ・・と思ってからでは遅いんだよね。
圧倒的な、威圧感。
机にいる僕の所に、目を合わせたままで、近づいた。
歩いてくるのではなく、飛んだままズィっと息がかかるまでの距離に。
「・・・・・・・・っっ」
ああ、汗が垂れて。僕は固まったまま。
君の尖らせた目を見てる。
「反省点は?」
「・・・・・・・・・・ほ、本を君より大事と言ったこと」
「何か俺に言うことは?」
「ごめんなさい。訂正させて下さい」
「何を?」
「君が一番大事です」
「・・・・・・・・・・・」
鼻の頭に突きつけられたステッキを、手のひらでカバーしながら、
僕は片目を瞑って言った。
ひー。ヤツ裂きにされそう。
身体を宙に浮かされると、僕らの出会いを思い出す。
だけど僕が君を大事と言ったことで、満足したのか。
すぐにフワリと降ろされた。
踵を返して、ベッドに座った二世は、でもまだ僕を見てる。
「・・・・・・・・欲しいの?」
ため息を吐きながら言った僕は。
ホントは、半分諦めていて。
しおりを挟むと、イスから腰を上げた。
だって、恨めしそうっていうか、物欲しそうなんだもん。
二世ってば。
ブスっと頬を膨らませていられると、こっちも辛い。
仕方なく、覚悟を決めると、そっちに近づいた。
吸い寄せられるように、足が引きずられていく。
こういう時、重力は。
きっと下ではなく、君に向かっているのだろう、と思う。
君は僕のマントルだ。
「キスしてくれる?悪魔くん」
「いいよ」
「・・・・・・・上手くできたら、俺イイコで寝てやってもいいぜ」
「・・・・・・・・・・・え、ほんと?」
「っ嬉しそうにすんな!!」
「ご、ごめんごめん」
そういうトコ、可愛くて好き。
さっきのカッコイイ時の二世も好きだけど、今みたいな顔も好き。
僕のキスを待って、目を閉じた。
反省してるの?ワガママ言ったから?
それならお互い様だから、大丈夫だよ。
君に教わったキスしかできないけど・・・・・・・
「・・・・・・・ん・・・・・・」
下手でも上手いと言って。
唇が離れたらその顔のままで、目を開けて。
僕を好きで好きでたまらないみたいになって、
ドキドキしていて。
「・・・・・・・・・・・・」
抱きしめるのを堪える為に、二世は今強く手を握った。
抱きしめてしまえば、止まらない衝動を知っているからだ。
時々、僕は二世に慣れない事をさせる。
「・・・・・・・・・っふ・・ぁっ・・・」
我慢じゃなければ、いいんだけど。
僕と会って耐える事ばっかりだったら、と思うと怖い。
僕は、ワガママで自分勝手なトコとか、自由奔放な君の生き方も好き。
ただそのままで側にいて欲しいくせに、
ムリを強いる僕を、君はどう思っているんだろう??
可愛いおねだりのキスは。
「・・・・・っ・・・・二世・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
もうすぐ終わる。
「オヤスミ、悪魔くん」
「・・・・・・・・イイ夢を」
「おう」
・・・・・・・・・・・。
君が魂や血を欲しがる様な、もっととんでもない悪魔なら良かった。
優しい悪魔は心を縛るから、キライ。
「や、やっぱりしよう」
「へ??」
「僕、したくなっちゃった。キスがマズかったみたい・・・・」
「・・・・・・悪魔くん?」
「してよ。二世」
何もあげられるものが無い僕は。
せめて、時間を。
身体じゃないよ?時間を。
「・・・・・・・好きだぜ」
「うん」
「その鼻の低いとこvv」
「・・・・・・・・・っバカ」
君と過ごす時間が、永遠じゃない事を知っている僕は。
「・・・・・・キス、君からもしてよ」
「いーぜ。お手本を見せてあげましょう」
「下手だったって言いたいわけ??」
「ニャハハ。そうは言ってないけどぉ〜」
真面目な話は抜きにして。
君と抱き合って、冗談を言いたい。
いつも笑っていたい。
楽しいことだけ、与えたい。沢山、沢山。
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