『桜三度』
「やっ」
という声に、真吾が目を上げると部屋の窓の外に、すーっと黒い悪魔が降りて来た。
なつかしい、なつかしい姿。
「メフィストU世?」
三年前に別れて以来、ことりとも音沙汰の無かった彼。唐突な訪問とのんきなアイサツのコンビネーションに、
真吾は嬉しいやら驚くやら、かすかに腹がたつやら。
「どーしたんだい?」
「ちょっとそこまで来たからさ。いやー、相変わらず本の山築いてんのな」
足の踏み場も無いほどの本の山のてっぺんに、うまいことメフィストU世が着地する。
変わらない姿に変わらない笑顔。
まるで離れていた時間なんて、嘘だったかのようだ。
気が抜けて、真吾も笑った。
「ドイツの方はどう?」
「意外にごたついてて、働きづめさ。今日やっとはじめて抜けられたんだ」
ふぅん。じゃあもしかして3年間ではじめての休暇を取れたその足で会いに来てくれたのかな?
なんて思って、ちょっと嬉しくなる。連絡ひとつ無しの薄情なヤツ、
と思ってたことをこっそり心の中で謝る真吾だった。
「相変わらずの研究虫だな」
本の山を見回してメフィストU世がぴゅうと口笛を吹いた。
「これでも、頑張ってるのさ」
「ああ、君ならきっとそうだと思ってた」
「そう」
賛辞に、なぜかふっと真吾の顔がくもる。
「どうした?」
「がっかりさせちゃうかもしれないけど、君が思うほど僕は相変わらずじゃないかもよ?
3年も年を取っちゃったし」
「?3年たちゃ当たり前だろ。それがどうした?」
「使命の事だけに、時間の全てを割く訳にもいかないし」
「良かった。君は根つめすぎる性格だから心配してたんだ」
「あの頃みたいに、前も後も見ないで走るような真似ももう出来ないし」
「そりゃ安心」
拍子抜け。
苦笑いで真吾はため息を吐く。
「君って人は…一体僕をどこまで甘やかす気なの?」
「そんな気はないさ。何悩んでんのか知らないけど、君は1ミリも変わっちゃいない。
相変わらずくそ真面目に、
同じ夢に向かって歩いてる。 3年経ったら3年経ったなりの、君の歩き方があるだけだろ」
放り出すような、お調子っぽい、それでいて誰より信頼のおける優しい口調。
3年――桜3つ分の季節を越えても変わらないそれが、胸をじんと打って。
いつしか真吾の顔にも、はれやかなものが戻ってきていた。
「…ありがとう」
気づかない内に、結構イロイロため込んでたのかもしれない。後で真吾はメフィストU世に言った。
ランドセル背負って、好き勝手駆け回っていた頃とはまったく違う生活。驚くようなところまでがんじがらめの学生服。
夢に全霊で打ち込むことの許されない日常。そしてひっきりなしに、迫られる将来への選択に縛られて。
「進路希望調査票」と印刷された藁半紙。今日学校で配布されたというそれを、
メフィストU世はしげしげとひっくり返して見ていた。
「まさかそれに、『救世主』って書くわけにもいかないだろ。
母さんたちに心配かけられないし、 でも普通に大学に行く気もないし…。困っちゃって。
でも何より、そんな事で悩んでる自分が何だか、なさけなくってさ」
メフィストU世は豪快に笑った。
「やっぱり、変わんないのな。クソ真面目一辺倒の悪魔くんだ」
悪口のはずなのに、それはとても優しいひびきを伴っていた。
笑い顔のままでメフィストU世は続けた。
「…なあ、将来について悩んでるんだったら、もう一つテはあるんだぜ?」
「え?」
「嫁に行くってのは、どう?」
「は?誰の」
「俺んトコにでも」
「え、ちょっとちょっとメフィストU世」
「悪い話じゃないだろ。ま、考えておいてくれ。んじゃーな」
めまいのするような台詞をおいて、わずかに赤い顔して、メフィストU世は窓からすぽんと外へ飛び出す。
「ねぇまさか君、今日来たのってそのため…」
言いながら窓から首をつきだしたら、もう相手の姿は青い空のどこにも見えなかった。
(あーあ、勝手だなあ)
相変わらずなのは、どっちなんだか。
そんなつむじ風か台風みたいな彼が大好きなのは、ほんとうのことだけど。
だから。
だから、まあいいか、と思って。
それに何より、それを提出したときのアタマの固い担任の顔が楽しみで。
苦笑しながら真吾は、調査表の第一希望の空欄を『永久就職』の四文字で埋めたのだった。
FIN.
「Devil Kids」のうみぃさんにいただいた相互リンク記念SSです!!
うみぃさんのメフィ真はいつもながら本当にうっとりですvV
しかも最終回後の再会エピソード(好きなんです)でもう感激&満腹でございますー!!
いいですよね中学生真吾…v
短パンも非常に萌えますがまた別のセクシーがありますね(語るな)
メフィも登場シーンとか照れながらの唐突なプロポーズとかカッコ可愛すぎです!!
ええもうLet’s永久就職です☆
そしてさらに!うみぃさんが後日談を書いてくださいました!!
本当にありがとうございます!!!
と言う訳で気になる続きは「Devil Kids」様でどうぞ!!
ラブラブなメフィ真をありがとうございましたvV
どうぞこれからも末永くよろしくお願いいたします!!
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